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2024年のRWAを牽引したSecuritizeの日本市場での活動と展望(後編)

本記事では、後編として、グローバル事例が示す未来に日本がどう応えるべきかを考察します。

前編はこちらからご確認ください。

1. TradFiでの活動がもたらす可能性

日本市場におけるデジタル証券の多くは、現状では伝統的な金融サービス/システム、いわゆるTradFiの延長線上にあることは前半でご説明しました。Securitizeの日本国内のTradFiでの数々の活動は、市場の信頼性を確保しながら、これまでにない価値を生み出してきました。

TradFiの世界とオンチェーン(Web3)の世界を対比すると、日本市場での活動はTradFiの可能性を広げる形となっています。

※本記事では、TradiFiとオンチェーンの世界を区別する表現を使用していますが、将来的にこれらの世界が自然に融合し、気づかないうちにオンチェーンサービスが日常的に利用される時代が訪れると考えています。本記事では、現時点での認識のギャップをわかりやすくするため、あえてこのような表現を採用しています。

(1) 投資商品/投資体験の多様化

投資商品として、投資家に多様な選択肢を提供しています。

  • 映画ST(映画宝島)では、映画製作への投資機会を一般投資家に提供し、エンターテインメント分野で新たな資金調達モデルを構築しました。
  • 社債ST/特典付き社債では、商品に独自の付加価値を加え、投資体験を進化させています。
  • 合同金銭信託STでは、銀行口座保有者への新たな投資機会を提供しています。また、外貨建STも発行しました。

(2) 販売チャネルの多様化

既存顧客基盤へのアプローチを強化するとともに、新たな投資家層や事業機会を開拓しています。

  • ソニー銀行と三井住友信託銀行の合同金銭信託では、銀行チャネルを活用して幅広い投資家層にリーチしました。
  • 丸井グループの自己募集型デジタル社債では、自社顧客への直接訴求を可能にし、資金調達と顧客エンゲージメントを両立しました。
  • 複数のチャネル(自己募集、銀行販売、証券販売)を柔軟に選択可能とすることで、発行者の戦略に応じた最適なモデルを実現しています。

(3) 信頼性の担保

先進的なオンチェーン技術を提供する一方で、金融機関が求める安心感や規制要件を重視しています。要件に応じてプライベートチェーンや預かり型の仕組みも提供することで、規制に適合した信頼性の高いサービスを実現し、金融機関との円滑な連携を可能にしています。

(4) 次世代への布石

現状のTradFiにおける取り組みであっても、Securitizeのプラットフォームは、パブリックブロックチェーンへの展開を視野に入れた高い柔軟性と拡張性を備えています。これにより、現在の仕組みを維持しながら、次世代の金融エコシステムへの移行をスムーズに進めることが可能です。

日本国内におけるSecuritizeの取り組みは、TradFiの可能性を広げ、信頼性のある資金調達モデルを提供するとともに、次世代の金融モデルへと移行するための基盤を築いていると言えます。

2. グローバルの進展、日本とのギャップ、そして未来への道筋

(1) グローバル市場の進展:BUIDLが示す革新性

2024年に世界の注目を集めたBlackRock社のトークン化ファンド「BUIDL」。このプロジェクトは、伝統的金融商品をパブリックブロックチェーンで展開し、オンチェーンで完結させるアプローチを採用しました。高い信用を持つ発行体による、高い透明性を持つオンチェーン完結の伝統的金融商品は、オンチェーンの住人(例:暗号資産交換業者、DeFiプロジェクト、Web3投資家等)には非常に魅力的と言えます。
これは、オンチェーンの住人をターゲットとした伝統的金融商品の成功モデルとなりました。

以上のことを図示すると以下のようになります。
BUIDLのようなオンチェーン完結型のデジタル証券は、左側の領域に存在する伝統的な金融商品を、右側の領域に橋渡しする形で実現しています。
逆に、オンチェーンの資産である、ビットコイン等をTradFiの世界に持ってくるものが暗号資産ETFと言えます。(図の下部)

(2) 日本市場とのギャップ

前述の通り、国内のデジタル証券は、TradFiの中で投資商品や投資体験を拡大してきました。一方、「BUIDL」をはじめとしたオンチェーン完結型の伝統的金融商品は、商品は伝統的なものでありながら、ターゲットがTradFiとは異なる「オンチェーンの住人」になります。
日本市場においても、オンチェーンの活動が発展し続ける場合、その領域に対してデジタル証券を展開することが必要になるはずです。
しかしながら、TradFiの延長ではオンチェーン完結型のデジタル証券を実現することは難しく、明確に別の視点に切り替えて取り組む必要があります。

日本市場では、オンチェーン完結型のデジタル証券を展開するためにはいくつかの課題があると考えています。

  • ターゲット市場(オンチェーン)の未整備
    • 日本市場では、広く使われる日本円建てのステーブルコインが存在せず、日本円ベースのオンチェーン取引の基盤が整っていません。これにより、投資家や事業者がオンチェーンで日本円ベースの資産を運用する選択肢が限られています。そのため、日本ではオンチェーンの住人を対象とする取り組みが海外に比べて目立っていません。
    • 結果として、日本におけるオンチェーン市場の規模/需要を十分に捉えきれていません。
  • 技術的課題
    • 日本のデジタル証券販売においては、投資家が自身でトークンを扱うことができません。選択肢すら与えることなく、カストディ型の仕組みに依存しています。結果として、オンチェーンエコシステムとの統合が進んでいません。
    • 主に証券口座を前提とする金融システムがオンチェーン完結型モデルに対応するためには、技術導入、規制対応、教育など多くのコストが必要です。
    • 日本市場では、規模がつかめないオンチェーンの住人を対象とした対応をするインセンティブがまだ小さく、これらコストをかける動機が生まれにくい状況です。
  • チャレンジの動機
    • デジタル証券の取り組みが開始した当時、日本では暗号資産流出事件等の影響からパブリックブロックチェーンに対するネガティブなイメージがあり、デジタル証券はプライベートチェーンを前提とした議論が行われてきました。
    • 上記の全ての状況を踏まえると、この状況の中で、日本企業があえてパブリックブロックチェーンを利用するハードルに挑戦する理由を見いだすことが難しい状況となっています。

(3) ギャップを乗り越えるために

日本のデジタル証券市場は、TradFiの枠内で進化を続けてきました。証券会社による販売やカストディ型の保管方式は、投資家に安心感を与え、市場の信頼を支える基盤となっています。Securitizeはすでに、その日本市場においても、オンチェーン完結型デジタル証券を展開するために必要なプラットフォームを提供しています。このメリットも活かしつつ、オンチェーン完結型デジタル証券を日本で行うために考えられることは以下の通りです。

  • ターゲット市場の発展
    • オンチェーン完結での金融取引には、パブリックブロックチェーンに流通する日本円ステーブルコインが必要となります。
    • 既に1年以上前に法改正もされ、この分野については多数の取り組みが行われている状況という認識です。そのため、この市場は大きくなるという前提とした考えで取り組む必要があると考えています。
  • 実績のある証明された機能の活用
    • Securitizeのプラットフォームは、案件ごとに最適なチェーンを選択できる柔軟性を持ち、次回案件からパブリックブロックチェーンを使用することが可能です。
    • また、投資家が自身のウォレットにトークンを引き出す機能を備えており、カストディ型との併用も可能です。
  • 自己募集型モデルの活用
    • 自己募集型プロジェクトは、従来の金融機関を介さないため、既存の金融システムとの連携を考慮する必要がありません。そのため、オンチェーン住人を直接対象とする仕組みを採用しやすい環境と言えるでしょう。
    • 丸井グループのような事例は、このモデルの成功例としてさらなる展開の可能性を示しています。
  • TradFiとWeb3規制事業者の連携
    • 暗号資産交換業者は、オンチェーン基盤が整備されており、オンチェーンの住人とのチャネルを既に持っています。暗号資産交換業者がデジタル証券を取り扱うための規制をクリアすることで、オンチェーンの住人を対象としたオンチェーン完結型デジタル証券の販売チャネルとしての有力な候補となり得ます。
    • 金融機関グループに暗号資産交換業者が属している場合や、業務提携を行っている場合、金融機関と暗号資産交換業者の連携によりオンチェーン完結型デジタル証券の普及が加速する可能性があります。
    • 暗号資産が金融商品取引法配下になる議論が本格化した場合、暗号資産交換業者がデジタル証券を扱うきっかけとなる可能性があります。
  • パブリックブロックチェーンの活用に向けた活動
    • BUIDLのような成功事例を通じて、Securitizeはパブリックブロックチェーンを利用する意図、そして安全に扱うための方法を日本市場にも訴求し続けます。(既に多数の方にお話をしている伝道師と化している私ですが、ご興味のある方はお声がけください(笑))

3. さいごに

日本市場は、TradFiにおいて積み上げている商品性や投資体験の拡張と、これから発展するオンチェーンエコシステムの革新性を組み合わせることで、新しい金融の可能性を切り開くポテンシャルを持っています。特に、日本円や日本の魅力的なアセットを裏付けとする商品はグローバル市場においても高い需要があり、これを活かした商品は国際的な注目を集めるでしょう。

Securitizeは、グローバルで実績を重ねたプラットフォームを通じ、オンチェーン完結型のデジタル証券の展開を支える基盤を提供します。TradFiでの取り組みを活かしつつ、パブリックブロックチェーンを使用した次世代の金融モデルへの移行をスムーズに進めるための柔軟性を備えています。
BUIDLのようなオンチェーン完結型モデルの商品を日本市場から展開する未来はそう遠くはないと感じています。TradFiの枠組みを超えて、オンチェーンの住人や新たな投資家層にリーチする日本市場は、グローバルな金融エコシステムの中で重要な役割を担うでしょう。

Securitizeは、その実現に向け、日本市場が持つ潜在力を最大限に引き出し、世界とつながる未来の金融モデルを支えていきます。

*本ブログは、Securitizeに在籍する森田が執筆したものであり、一部に個人の意見や見解が含まれています。そのため、記載されている内容が会社としての公式見解を必ずしも反映しているわけではないことをご了承ください。

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